子どもがなかなかお風呂に入らないとき、寝る時間がきてもゲームを止めないとき、つい子どもを強く叱ってしまいます。そして後から「叱りすぎたかな…」と反省し、でもまた次の日には叱ってしまう。書店で平積みされた「<叱る依存>がとまらない」を見たとき、興味を持ったのはそんな背景があったからです。
そもそも「叱る」ってどういうものなのか。叱る人の脳内ではどんなことが起こっているのか知りたくて、この本を手に取りました。結論から言うと、読んでとても良かった! 子どもを叱る前に「これって叱る意味ある?」とひと呼吸おいて考えられるようになりました。
「叱る」は気持ちいい
「叱る人」の脳内ではどのようなことが起こっているのか、次のように説明されています。
「叱る」ことがその人にとっての「報酬」につながる、ということです。つまり人は誰かを叱ることで気持ちよくなったり、充足感を得たりしてしまうのです。(p.63)
子どもが口ずさんでいた、SEKAI NO OWARIの「Habit」という曲でも、
説教するってぶっちゃけ快楽
酒の肴にすりゃもう傑作
でもって君も進むキッカケになりゃ
そりゃそれでWin-Winじゃん?
との一節があります。
おそらく飲み会の席での上司と部下の会話を揶揄したものですが、私自身は上司側の立場から「ああ、そういう感覚は分かるなぁ。年下の人と話すときは気を付けないとなぁ」と妙に納得して子どもの歌を聴きました。
「叱る依存」で書かれている「叱ることで充足感を得る」もこれに近いのかもしれません。
「叱る」には大した効果がない
一方、叱られたことで「君も進むキッカケ」になるのでしょうか? 「叱る依存」ではこの問いに「No!」を突き付けます。
でも実は、「叱る」にはそんなに大した効果はありません。少なくとも、「叱る」による人の学びや成長を促進する効果は、世間一般に考えられているほどではないのです。一見するととても「効果があるように感じる」だけで、実は課題解決にはあまり役立っていません。(p.25)
事あるごとに母親から「宿題しなさーい!」と叱られているのび太くんが、その場は(いやいやながらも)宿題するけれど、次の日にはまた宿題後回しで遊んでしまうように、「叱ったところで相手の行動が変わるのは一瞬だけ。長期的に見ると効果がない」ことがよく分かります。
「叱る」と「怒る」の違い(違わない)
いやいや、のび太くんの母親は「叱っている」のではなくて「怒っている」のでは? 「宿題しなさーい!」と強い口調で言わず、冷静に話したら効果があるのかも。
私自身は子育てする上で、「感情に任せて怒る」のはダメだけど、「相手のためを思って叱る」は必要だと思っていました。ですが、次の一文を読んでハッとします。
「叱る」と「怒る」の違いは、叱る側の感情の違いに過ぎないのです。それは確かに、叱る側にとっては大きな違いです。自分の感情に圧倒され「怒りに任せて」言ってしまうことと、「相手のためを思って」冷静な気持ちでいうことは、叱る人にとってはまったく異なる体験でしょう。しかしながら、相手にネガティブ感情を与えている点で考えると大差ありません。(中略)ネガティブ感情には「自分のためを思って言ってくれた」というタグはつかないのです。(p.35)
「怒ってはだめだが、叱るのは必要」は叱る側のことしか考えていないのだと、気がつきました。
「叱られた人がやる」は苦痛からの回避
母親に叱られ、渋々宿題を始めたのび太くんの気持ちを考えると、次の説明がしっくりきます。
叱られる側のこの行動は単なる「苦痛からの回避」に過ぎません。目の前の苦痛な状況をできるだけ早く終わらせるという目的で、最も効果的な行動をしているに過ぎないのです。そのため、本来その場で何か求められていて、どう考えどう振る舞うべきなのか、という本当の意味の学びにはなっていません。(p.57)
「叱る依存」を読み、子どもを育てるうえで「叱っても意味がない。叱られたことでむしろ弊害の方が大きい」と納得感を得ることができました。
叱ることで、子どもが私にとって望ましい行動をするかもしれませんが、それは所詮一時的なこと。長期的にみると望ましい行動を引き出すには「叱る」は効率が悪い方法なのだと思うと、自然と叱る頻度が減ってきました。
さいごに
最後に、子どもを「叱る」かどうか迷ったときのために、本書の内容をメモしておきます。
- 「叱る」効果があるのは「危機介入」と「抑止力」。
- 「危機介入」は、例えば命の危険がある、誰かに危害がおよんでしまうなど、一刻も早く状況を変えなくてはいけない場合など(叱られてストレスを感じ防御モードになった人は、深く考えることをやめて即座に反応することを利用する)。
- 「抑止力」は、叱られる側のネガティブな感情体験が抑止力となって、危険な行動や望ましくない行動を予防する。
- 子どもの不適切な行動を変えたいときの対応は「叱る」ではない。→ではどうすればいい?これはもっと掘り下げて考えたい。
以上です。
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