「ひとの気持ちが聴こえたら」ジョン・エルダー・ロビソン

「ひとの気持ちが聴こえたら」を読みました。自閉症(アスペルガー症候群)の著者ジョン・エルダー・ロビソン氏が、ある先進治療を受けたことで生じた脳の変化と、それに基づく数奇な体験を詳細につづった手記です。変化とは、今まで分からなかった他人の言葉の裏にある感情が分かるようになったこと。まさに、小説「アルジャーノンに花束を」を地で行くノンフィクションストーリーでした。

自閉症の特徴のひとつに、「人の言葉をそのまま受け取ってしまう」「ボディランゲージ、口調、言葉の綾などを上手く読み取れない」があると見聞きします。著者の言葉を借りると「人の言葉から感情を読み取る能力が欠けている」とのこと。一流の音響エンジニアだった著者は、音楽もたんなる「波動」として見ていましたが、脳刺激の治療(TMS)を受けたあと、音楽に対する見方がガラリと変わったと語ります。50歳の著者が、音楽を聴き、初めて感情が揺さぶられる経験をするところから、このノンフィクションストーリーが始まります。

治療の効果は、「音楽に感動する」だけではありませんでした。著者は次第に、他人の言葉の裏にある感情も分かるようになっていきます。これにより人間関係が上手くいき、様々なことが好転するのだろうな…と安直に考えながら読み進めますが、そうならないところがまさに人生なのだとすぐに思い知らされました。

「複数の精神科から、自閉症のおかげで、まわりで起きていることに気づかずにすみ、私は最悪の家庭環境から守られたのだと言われた。感情に対する洞察力が高まった今、私は私を守ってくれる盾を失い、うちのめされることがときおりあった。人の心を覗けば、優しさや愛情が見えるという幻想をいだいていた。(p.286)」と語るように、人の気持ちが分かるようになっていく過程で著者は家族、友人などを失う経験もしていきます。

「ひとの気持ちが聴こえたら」は、自閉症を抱えて生きる人々やその家族、脳神経分野の研究と先進医療、そして作者の数奇な人生が絡み合った1冊です。読み終えた後は、映画を何本も観た後のような高揚感と疲労感を覚えました。「すごい本を読んでしまった…」としばらくこの本が頭から離れなかったほどです。

小説「アルジャーノンに花束を」では、知的障害をもつ青年が、手術で天才になったものの、その後知性は失われて完全にもとのIQ70に戻りましたが、「ひとの気持ちが聴こえたら」の著者ははたしてどうだったのか? 気になる方はぜひ本書を手にとってみてください。

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