「今日寝たらどこ行くの?」
3歳長女の口癖です。
いつもは「明日は保育園だよ」と返すのですが、その日は違いました。
「明日は三歳児検診に行くよ」
サッと顔が曇った娘。
あ。まずい。非常にまずい兆候です。
「おやすみなさい。電気消すよー」
精一杯の優しい優しい声をかけ、一緒に布団へもぐりこみました。
* * *
赤ちゃんの頃から人見知りが激しかった娘。
私以外に抱っこされると、30分でも1時間でも泣き続けるという特技をもって産まれました。
今まで一番多く口にした単語は、
「こーわーいーー!!」
一歳半検診では、「こわいこわいこわいーーー」の連発っぷりに驚く看護師さん。
「みんな怖がるんですけど・・、ここまで怖がる子はあまりいないですね。お母さん、育児相談を受けてみますか?」
え…。そうなの?
娘は極端に怖がりかもしれないけど、個性だよね。と気にしないようにしていましたが、この時にまかれた不安の種は、私のなかで徐々に成長したのでした。
さあ。いよいよ三歳児検診。
噂に聞く「親も子も消耗する難易度の高い検診」
泣き叫ぶ3歳児たちと、必死になだめる親・親・親・・
なかには赤ちゃんを抱っこしたパパママもおり、検診会場は地獄絵図をきわめるとか。
すでに検診をうけたママにそう聞くたび、「そもそも病院ギライな長女ちゃん。大丈夫なのか…」と泣きそうになりました。
「今日は保育園いく」
検診当日の朝、開口一番に宣言した長女。
「今日は保育園おやすみだよ」
「なんで?なんでなんで?行くよーー」
「重大発表をします!長女ちゃんは3歳になりました。今日は特別にお母さんと三歳児検診にご招待されました。ママと弟くんといっしょに行こう。そんで終わったらドーナッツ食べて、公園にもいこう!」
なるべく明るく、楽しそうに誘ってみます。
「・・・私、行かない。」
娘のその一言を聞き、私は長い長い一日のはじまりを覚悟しました。
* * *
「三歳児検診」は国が義務付ける無料の検診。
わが家が暮らす自治体では、3歳の誕生日を迎えた翌月に健診の通知が送られてきます。
検診項目をみると、
- 尿検査(採尿して持参)
- 歯科検診
- 身体測定
- 診察
- 心理相談
ほかにも「視力検査」と「聴覚検査」を家庭で行い、検診当日に提出します。
というわけで、検診当日の午前中はやることが盛りだくさん(検診は午後から)
まずは、「採尿」
まだオムツが外れない娘。「おしっこ出るよ」「おしっこ出たよ」と言うこともなく、採尿どーすんだ!と早々に壁にぶち当たります。
「うちはお風呂場に裸で座らせておしっこでるまで待ったよ」というアドバイスに従い、娘を風呂場に誘ってみました。
が、
ここは感の鋭い長女。
「三歳児健診」を連想し、テコでも動きません。
最終的に私が根負け。
今回は尿検査を見送り、別の日に再提出することにしました。
お次は、「視力検査」と「聴覚検査」。
動物や果物のシルエットをみせて、
「これなーんだ」
「・・うーん。パソコンのうしろに付いているヤツ!」
うん。正解です。
シルエットはかじられた跡があるリンゴでした。
聴覚検査は、私が小声で話しかけます。
「イヌ(ボソッ)」
「・・イス?」
ごめん。
お母さんの活舌が悪かったか。
さいごに問診票を記載して、母子手帳も用意して、いざ準備が整いました。
時刻はまだ午前10時。
まだ「はやく保育園いこーよー」と、ソワソワする3歳児。
自宅待機はもう限界です。
健診までの時間をつぶすため、近所の図書館と公園へ。
* * *
ランチは娘の好きなアンパンマンパン。
昼食後。
「眠いの…。私、いまからお昼寝する。」と、自ら寝室に向かった娘。
いやいやいや。
今まで、一度も自分からお昼寝するって言ったことないよね!?
案の定、あまり眠くないようで布団の上でムニムニ・・
いよいよ、家を出発する時間が近づいてきました。
万が一にそなえ、三歳長女を抱っこできるよう、1歳児をおんぶして出かけます。
「私、いかない!いかない!!いーかーなーーーい!!!」
ついに号泣しはじめた娘を抱えて、会場まで急ぎます。
頼むから無事に終わってくれ。
いつもは保育園の集団生活を楽しんでいる長女。
公園でも知らないお友達と積極的に遊ぶようになりました。
健診会場で、多くの子どもたちの姿を見たら大丈夫かもしれない。
祈りが通じたのか、健診会場の前で同じ保育園のお友達にバッタリ。
もちろん、全然泣いていないお友達。
「長女ちゃん。保育園の○○ちゃんも一緒だね!良かったね〜~」
「いやーーーー!!」
・・・全く効果ありません。
そして私が受付中に娘は会場から脱走。
* * *
「三歳児健診って、子どもが泣いて嫌がって大変!」
よく目にした三歳児検診の体験談。
歯科健診や診察でお医者さんを前にした子がパニックで号泣。
その泣き声が周りの子にも伝わり、号泣する子たちが続出だとか。
そもそも病院ギライな長女なので、覚悟して臨んだつもりでした。
が、まさか会場にすら入れないとは・・
会場には40~50人の3歳児がいましたが、はじまる前から泣き叫んでいる子は娘だけ。
私の想定のななめ上をいく子供の姿を目のあたりにして、一歳半検診での看護師さんの言葉がよみがえってきました。
「ここまで怖がる子はあまりいないですね」
・・泣きわめく娘を前にして思考停止する私にかわり、付き添ってくれた保健師さん子どもをなだめてくれています。
どれくらい、会場前の廊下にいたのかあまり記憶がありません。
多分、15分もいなかったと思います。
「三歳児検診、受けなくても良いですか?」
たまらず保健師さんに尋ねました。
「もし3歳児健診を受けなかったらどうなのでしょうか?」
「次は小学校上がる前の健診になってしまいます。何とか受ける事はできませんか?」
「・・はい。ただ今日はもう無理だとおもいます。一度怖いと感じてしまうとずっとこうなので。」
「でしたら、もう少し気長に待ちましょうか。3歳の間でしたら健診できますので。」
「保健所では心理相談もやっています。一度、相談なさっても良いかもしれません。」
私と保健師さんの会話を理解してか、していないか、定かではありませんが。
やっと泣き声が弱まり、娘は半べそでバイバイをして会場をあとにしました。
もう少し成長したら、娘の「怖い」がなくなる日がくるのでしょうか?
その晩。
スヤスヤと寝息をたてる長女の横で、
「三歳児検診」「行かない」「行けない」「拒否」「脱走」・・
同じような育児体験談を必死に求めしまう自分がいました。
* * *
「ポニョも三歳児健診受けたのかな?」
『崖の上のポニョ』を見ながら娘が聞いてきました。
保育園の先生には「三歳児健診に行ったの。でも出来なかったんだよー」と照れ笑いで話していたようです。
もしかしたら、三歳児健診が出来なかった、ということを一番気にしているのは娘かもしれません。
3歳児。
私が思っている以上に、いろいろ分かっているんですね。
「いける!」
一回スイッチが入ると、急に出来るようになる娘。
少し前まで滑り台から降りることが出来ませんでしたが、今ではうつ伏せで滑ります。
(見ていてヒヤヒヤします)
・・もう少しスイッチが入るまで待ってみようか。
長い道のりになるかもしれません。
その間、私のなかの不安の種はどんどん成長を続けるかもしれません。
ただ、「待つこと」を、そっと覚悟したことで、今日だけは一歩進んだ気持ちになったのでした。
▽この3か月後、無事に三歳児検診に行けました!